2016年4月18日
熊本地震 子どものこころのケアについて

 子どもは災害を理解できるのか?
子どもは大人になるまでの発達の途中で様々な体験を通してその意味を徐々に整理できるようになるのですが、まだ子どもであるがゆえに大人に比べて体験を理解し咀嚼(そしゃく)するのに時間がかかります。「災害」に遭遇すること自体は大人と同じでも、それを理解できない、理解できてもうまく表現できない、SOSを出せないので、こころに受けた傷についてのメッセージを身体反応や振る舞いで他者に示そうとしているのです。

 子どもの行動に現れるSOSのサイン
東日本大震災で私が体験した事例を紹介します。
災害後2カ月たった頃に私は災害支援看護師として避難所の看護をしていましたら、避難所の真ん中あたりに5歳の女の子が家族と一緒に住んでいました。下を向いて遊んでいたその子とお父さんに声をかけ、最初はお父さんとおしゃべりをしながらその子の様子を見ていました。お母さんがそこへ戻ってこられたので、お子さんの様子で災害前と変わったことはないかと尋ねましたところ、「あ、そうそう昨夜寝る前になんかごそごそしているなあと思っていたら今朝になって見てみたら娘が眉毛を全部抜いちゃっていたんです。」下を向いていたので気づきませんでしたが見ると眉がありません。そして、被災した自宅からやっとのことで取り出してきたおままごとセットでちょうど遊び始めたときでした。同じ避難所で仲良くなった3歳の女の子もやってきて一緒に遊ぼうとしました。すると「私のおもちゃに触らないで。わたしのものよ!」というのです。「そんなこと言わないで・・・」とお母さんが諭すと、「じゃあもう遊ばない。」と立ち上がりおもちゃを床へ投げつけてスタスタと歩いていこうとします。それを引きとめながらお母さんは「災害前はこんなんじゃなかったのに災害後は情緒が安定しないんです。すぐ怒るし、遊びも続かないし、自分の物への執着が強くなっているんです。私達、この子を連れて自宅へはどうしても片づけに行かないといけないのですが自宅に続く道に近づくと、『おうちいや、行きたくない』としゃがみ込み泣き叫びます」といわれていました。
この5歳の女の子にとっては、自宅で受けた災害体験は非常に恐ろしい出来事だったのでしょう。そして今、自宅でない避難所で寝泊りしていることは非日常的でいつもと違う毎日が続いているのです。これまで慣れ親しんだおもちゃも無くとてもストレスを感じていたのだと思います。お父さんとお母さんで交わされる今の困難や将来の見通しについての会話も少しは理解できるでしょうから、なおさらでしょう。自宅から避難所へ逃げてきた体験もとても恐ろしいものだったに違いありません。でもまだ5歳では自分の気持ちを言葉で表現する力は備わっていないと思います。ですから行動で一生懸命に不安や悲しみを表現しているのです。
わたしは、この子のお父さんとお母さんに、きっとこの度の災害について5歳のこの子なりのストレスを感じ、その反応を伝えようとしているのだということを説明し、お父さんお母さんは次のようなことをしてあげてくださいとお伝えしました。
ずっと離れないで見守っていてあげてください。いつでもここにいるよという態度で接して
あげてください。
安心できるように何度もぎゅっと抱きしめてあげてください。毎日一緒に抱きしめて眠ってあげてください。避難所はまだまだ寒いでしょうから抱っこしていると一緒に暖まることもできます。
災害後に起こっているストレス反応だから驚かずに改善を待って下さい。ただし眉毛を抜く自傷行為もあったので念のためにこころのケアチームと連携し医療者である私達は一緒に見守りたいと思いますと伝え承諾を頂きました。私達は避難所ではいつも一緒に遊んだりしたいと思います。遊んでいる間は災害に遭った体験を忘れることもあるでしょうし、今の時期は楽しいとか癒される体験をたくさんすることが大切です。もし、また情緒不安定になったりほかの子とうまく遊べなくても、叱ったり制止しないで「大変だったねえ。いろいろめちゃくちゃになって怖かったねえ。安心して!大丈夫だよ」というメッセージを伝えながら見守りましょう。スキンシップをとり穏やかな口調で居続けることも大切です。もし、誰かを叩くなどの行為があればその都度「いけません」と言いましょう。
 子どもは自分の力で前に進もうとしています。それを見守り支援しましょう

いくつかの避難所で私は、子どもたちが津波ごっこ、地震ごっこをしているのを見かけました。「地震だ、地震だ、机の下に潜らなきゃ。」「津波がもうすぐ来ます。皆さん逃げてください」と大きな声で数人が走り回っています。

このような状況を見かけたら制止せず、見守るようにしてあげてください。子どもたちは、恐ろしい体験を遊びの形で表出し再現することで、自分の体験として消化しようとしているのです。傍に居る機会があったら「怖かったねえ、逃げてきたからもう大丈夫だよ」とやさしい声で話しかけてあげるとよいと思います。
親しい人の死についてですが、幼児の場合はまだ死という概念が、理解できないと思います。理解できるようになるのは小学校に入ってからだと思います。しかし、その人がいないという現実はあるので、どこかへ行ったと嘘を伝えるのではなく、もう会えないということを徐々に理解できるように接したほうがよいです。小学生以上の子どもは、死について理解できていたとしても受け入れられるという事が出来ない場合があります。家族や周囲の人は、時間をかけて自然に受け入れられるように支援してあげてください。思い出話をしたりアルバムを見たりするのもよいでしょう。遺影にロウソクやお花を添えたりして故人とお別れする儀式としての喪の作業のプロセスが自然に行える環境を整えることも大切です。また親しい人の死を自分のせいだと責めたりする場合もあります。それは災害のせいなのですが子どもたちにとってはそうは思えない場合があります。子どもたちが思っていることを口に出して言えるよう支援し、「あなたのせいではなく災害のせいで、だれもが防ぐことができなかったことなんだよ」と説明しましょう。それでも受け入れられない状況が長く続き日常生活に支障が出ている場合は、専門家の支援を受けた方がよいと思います。


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  • 兵庫県立大学 大学院 看護学研究科