2018年7月10日
西日本豪雨 災害支援に行くときの注意点、避難所での暮らしの注意点
事例を通して学ぶ避難所・仮設住宅の看護ケア [単行本]
黒田 裕子 , 神崎 初美 (著) 日本看護協会出版会
閲覧・ダウンロードはこちら(PDF 4.3MB)
http://jnapcdc.com/files/pdfs/hinanjo_care.pdf
災害支援 ボランティアにいくとき必要なもの
どんな所持物品の準備が必要か?
□ 災害支援ナース登録証や腕章など身分を保障するもの、あれば自分の名刺
□ 保険証のコピー
□ 現金(小銭)
□ 血圧計
□ 聴診器
□ 体温計
□ 消毒液とガーゼ、カットバン
□ 文房具(ボールペン・赤黒マジック・はさみ・ホッチキス・クリップ・セロハンテープ・ガムテープ・A4用紙数枚・メモ帳・付箋)
□ 懐中電灯(ペンライトは必ず、あればヘッドライト)と予備乾電池
□ 携帯ラジオ
□ 携帯電話(充電器、充電用乾電池、ACアダプター)
□ デジタルカメラ
□ ホイッスル(自分が災害に遭った場合に必要となる)
□ リュック、ウエストポーチ(活動時には貴重品は身につける)
□ 現地地図(交通路線入り)インターネット活用も可
□ 雨具(折りたたみ傘、レインコート)
□ 上履き(スリッパは不可)または軍足 → 避難所にはいる際に必要 今回は水害後のため長靴!
□ 洗面道具
□ 裁縫道具
□ タオル
□ ティッシュペーパー
□ ウエットティッシュ
□ 着替え(日数分)、ソックス、下着、Tシャツなど
□ 自分の常備薬、生理用品、うがい薬、目薬
□ 携帯食 3食×派遣日数分(糖分・ビタミン、カルシウム補助食品)
□ ペットボトル飲料水
【災害早期に被災地に入る場合】
上記に加え
□ トイレットペーパー1巻
□ 簡易トイレ、紙パンツ、尿とりパッド → トイレが使用不可の時に代用
□ 寝袋
□ 食品ラップ → 創部のラップ療法や食器に敷くことで洗浄不要にできる
□ 割り箸 → 骨折時の副木にも使用可
□ 新聞紙 → 掃除・保温・床に敷く など
□ ビニール袋(大・中・小)→ 防水・雨具・更衣用の目隠しに使用可
□ 季節により虫除けスプレーや使い捨てカイロや使い捨て吸熱シート
どんな服装が適切か?
□ 季節にあった動きやすい服装で派手でないもの
□ 帽子
□ 靴底の厚い運動靴(水害災害時には長靴もしくは防水靴も考慮)
□ 被災地の気温や天気予報を確認する。
・避難所に行く前の心構え
できる限りに被災地域に関する情報を入手する!
派遣ナースとして避難所で活動することが決まったら、被災地外にいる間にできる限り被災地域に関する情報を入手して被災地内に出向いていただきたい。派遣が決まり現地に赴くまでには少なくとも24時間以上は時間の猶予があるだろう。その時間は「被災地状況の情報収集」のために割いてほしい。これから自分が行く被災地はもともとどのような地域であったのか?総人口、地域規模、死亡出生数、高齢化率など保健統計を知っておく事は被災地で必要となるだろう支援を予測する上で重要である。例えば、高齢化率が高いことがわかっていたら出会う被災者には高齢者が多いであろう。これらの情報は県や市役所のホームページに必ず記述されているためWebを閲覧し調べるようにしておいて欲しい。
災害発生による被害状況がどの程度かを把握する
行こうとしている被災地の災害規模と種類、地域特殊性、道路や交通機関の状況、医療機関の稼働状況、安全性などについても情報収集に努めて欲しい。全壊家屋数や被災避難住民の数を知っておく事も重要である。災害発生時に多くの人が避難していた避難所でも、全壊家屋が少ない地域では、ライフラインの普及と共に家に戻れる人が多く、避難所人口が変化する。反対に、全壊家屋が多い地域では避難所の避難者は減少しない。電気・水道・ガス・電話・携帯電話・インターネット回線などのライフラインの破壊と復旧状況や見通しを知っておくことで、活動の計画ができ被災地への持ち物も調整できる。
・被災地での心構え
何のために被災地へ行くのか?自覚してから被災地へ!
派遣ナースとして被災地で活動する場合に心がけて欲しいことは、「自分は何のために被災地へ行くのか?」という目的を見失わないで欲しいということである。活動の主目的は、被災地域の人々の健康の維持と被災地で働く看護職の支援である。その目的を遂行するためには自身の健康に気遣い、円滑なコミュニケーション、看護活動ができるような服装や持参品、適切な情報収集、が必要であることが理解できるだろう。
自己完結のボランティア活動とは?
「被災地支援にいくなら自己完結の姿勢で」と言う言葉を聞かれたことがあるだろう。ここでいう「自己完結」とは、被災地医療職や被災住民の皆様に迷惑をかけずに自分自身で意志決定をし周囲の人々と連携した活動ができるということである。災害支援に赴いているという状況で「気分が高揚」し現地に出かける人が多いが、到着した被災地ではすでに多くの人々は疲労が蓄積しているなかで活動している。空気が読めず温度差の違いを感じさせ被災地の人々を疲れさせる可能性もある。不用意に「これまだできていないんですか?」と何気なく聞いた言葉も現地の人々は非難されたととらえるかも知れない。なぜなら、現地の支援者達は「十分なことができていない」と日々自問しながら活動していることが多いからである。使う言葉も配慮して活動して欲しい。
従って、被災地では「自分のしたい援助が相手の望む援助であるとは限らない」ことを認識し活動して欲しい。相手の気持ちを察し、必要とされているニーズを見つけ出し、看護の基本に立ち戻ってコミュニケーションして頂きたい。
しかし、消極的になるのではなく積極的で自発的な活動を行って頂きたい。不足する災害看護に関する知識・技術を学び活動することは必要だが、実は最も重要なことは人として当たり前の常識を持って看護できる人間力・社会力を持つことであると経験から実感している。
避難所での看護の役割
・避難住民の数や健康状態・避難所環境の把握
看護職として避難所に駐留する際には、避難住民の数や健康状態・避難所環境などの状況について情報を入手し把握することが求められる。その内容を日報に記載し、毎日FAX送信やミーティングに参加することにより報告する必要があるからだ。
避難所の人口は昼と夜では大きく違う。昼間は、被災者の皆さんは被災した自宅の片付けに出るか、時間が経過すると働きに出るため避難所内は子どもと高齢者だけとなる。東日本大震災のケースでは昼間は行方不明のご家族を捜しに出かける人も多かった。避難所で最も人が多くなるのは、朝食と夕食の配食時となる。伝達したい情報や実施したい内容があれば人口の最も多いこのときに行うのがよい。エコノミークラス症候群や廃用症候群予防のためのラジオ体操なども人が多い朝夕にやる方が効果的である。
更新される災害関連情報にも敏感になっておく必要がある。情報入手しにくい高齢者などに伝える必要があるためである。
ラジオ・新聞・インターネットの情報を積極的に得る
災害時、最も有用な媒体はラジオである。ラジオでは基地局が破壊されない限り放送を聴取することができる。何か活動をしながらでも音は耳に入る。避難所には新聞が置いてあることも多いため読むと良い。携帯電話やインターネットは電力が普及すれば便利な媒体となる。
様々な職種の人々と交流を持ち有用な情報を得る
避難所で看護しているなかでは、自宅避難者の数の把握は困難であるが、避難所を運営している組織やリーダー、自治会長に聞くと情報を持っている場合があるため情報を得て看護支援の必要性を探る。支援が必要な場合は、行政保健師との連携を試みる。その他、避難所には必ず行政担当者が2名駐在し、医療職にも出会う。ボランティアを組織する社会福祉法人や自衛隊が駐留している場合もあるため様々な職種の人々と交流を持ち有用な情報を得て連携し被災地での支援を行う。
被災者の関心事でもあるライフライン状況と見通しを知る
生活しているので不便は実感できるが、見通しに関してはデマや噂が飛び交うのが常であるため、詳細は行政から情報を得る。
マンパワー稼働状況や避難所環境を把握し適切な支援へ結びつける
不足物品があったり環境改善が必要な場合は、なるべく多くのことをメモに記載しておき毎日参加する行政看護職とのミーティングで主張する。
・避難所の状況と被災者の健康状態、多い訴え
避難所で看護する場合、まずは最初に空間の端に立って避難所の空間全体を見渡してみよう。広い空間のなかのひとりずつの表情や動作がよく見えるだろう。苦しそうな人はいないか、咳をしている人はいないか注意深く観察してみよう。そして他のNsと手分けして血圧測定をしながら会話をして避難所空間全体を回りましょう。「血圧測りましょうか?」と看護職の武器である血圧計と聴診器を持ち話しかけると、被災者さん達は注意を向けてくれるし、被災者さん達の身体に触れることもでき相手に安心感を与えることもできる。そのうちに一言二言と話し始める方もおられるため耳を傾けよう。最初は身体についての話でなかったとしても耳を傾け、だんだん身体についての話にも触れてみよう。それまで自身の体のことに気を配る余裕がなかった被災者もいるはずで、現在の体調に自身が気づけるよう支援し語っていただこう。
避難所で暮らす人々の血圧を測定しているとあまりに皆さんの血圧が高いことに気づくだろう。避難所では、血圧が安定する要素があまりに少ないからだ。地震・余震に対する不安と恐怖心、将来への不安、プライバシーが保てない、安心できず眠れない、喪失感や焦燥感のある人もいるだろう。日中に家の片付けをしていて疲れすぎていて眠れない場合もある。血圧が高いのは被災者だけでない支援している側も同じだ。行政担当者や炊き出しをしている人、自治会長さんの血圧や体調にも注意を払おう。
避難所生活のなかで持病の悪化する人も多い。高血圧・糖尿病・リウマチなど病歴を聴取しよう。喘息や呼吸器疾患のある人には聴診器で呼吸音の聴取をしてみよう。避難所の中で風邪やインフルエンザ患者が出ると同じ空間にいるため瞬く間に流行する。流行する前に、避難所での健康教育指導が重要である。手洗い・うがい・くしゃみ咳エチケットについて教育し、人からうつされる事を予防するだけでなく自分が感染源となる可能性があることに注意を払えるようにポスターやチラシを作り、住民を啓蒙しよう。その他に食中毒についても、日数が経過するとおにぎりやお弁当の取り置きで発生し集団感染を引き起こす可能性がある。いったん支援物資が届くようになっていたら消費期限を越えた食品は廃棄するよう促そう。
主に高齢者に多いのだが、日数が経過すると避難所のトイレが汚くなりはじめ、トイレが遠いとさらにトイレに行くことを我慢するようになる。水を飲まないことが賢明だと思うようになる。そうなると脱水症やエコノミークラス症候群、廃用症候群の誘因となる。努めて水分摂取を勧めよう。ペットボトルにマジックペンで日付を記し線を引き翌日までに線まで飲むよう促すと良い。
住民のニーズと優先すべき健康問題の把握
優先すべき健康問題の把握は、緊急性があるか、避難所でこの先暮らせるかどうかの2点で判断しよう。例えば、人工透析者、在宅酸素療法をしている者、認知症、感染症などの場合である。実際に私が体験した例だが、人工透析者だったが家族がそばにいて近所に透析医院があり透析予定日にそこまで通えうことができるからと避難所で暮らしていた人もいる。災害後、もっとも早期に病院に移送する必要があると思っていた人工透析者だが、支援と病院があれば避難所での暮らしを望む人もいる。
別のケースでは、夕食後に頭痛がするため災害支援ナースである私のところに来られ、血圧を測定すると収縮期血圧が200mmHgあり、片側のしびれを自覚しており、すぐに救護班のいる災害対策本部に行っていただいたこともある。緊急性の判断がナースだけでは難しい場合については、医師とすぐ連絡を取る事が必要である。
健康相談を実施した際に、簡単な集計と分析を行う
私たちは被災地外の災害支援者である。いずれは被災地を出ることになるため継続看護を可能にするために記録物に記述することは重要で、どのような症状や病気が避難所内に多いのか、いつも簡単に集計する必要がある。記録物のフォーマットが決められている場合は良いが無ければ自身で作成する事が必要である。
例)
症状のある人の人数:
発熱・咳・頭痛・高血圧・めまい・腹痛・便秘・下痢・食欲不振・ストレス・不安・吐き気嘔吐・睡眠不足・疲れ
これらは以下に掲載されています。
・被災者のアセスメントシート
・避難所の環境整備シート
どちらのシートも災害看護「命を守る知識と技術の情報館」http://www.coe-cnas.jp/ から引用
【避難所で暮らす人に多く起こりやすい健康問題】
高血圧 避難者も支援者も普段の血圧より上昇しやすい(ストレスの多い生活・不眠・余震・将来への不安など血圧が安定する要素がない)
持病の悪化 高血圧・糖尿病・喘息などいろいろ・・・
不眠 多くの人と同じ空間で、心配を抱えながらで、眠れる環境でない
風邪 多くの人が同じ空間にいて感染しやすい・寒いまたは熱い
膀胱炎 トイレが遠い・汚いなどで排尿を我慢しがちで水分摂取も制限
めまい 血圧? 不眠? 過労? で誘発される
けが 被災した住宅の片づけによるものがおおい
疲労 片付けによる肉体疲労・将来への不安
ストレス 様々な理由が複合
感染症 劣悪な住環境による・食べ物の取り置きによる食中毒など
エコノミークラス症候群 水分摂取抑制と運動不足・車中泊からなる
エコノミークラス症候群とは・・・
狭い避難所(特に車中など)での寝泊まりが続いた場合、下肢静脈の血行は悪くなり血栓ができる。この血栓がはがれて肺血管に流れて、塞栓を起こした結果、呼吸困難やショック状態を起こす。
看護上のポイント:
①災害時の緊急避難時、長時間の同一姿勢や、車中の寝泊まりなどを行ったあとに、歩行時の呼吸困難や胸の痛み、一時的な意識消失、片側の足のむくみなどが出現する場合、エコノミー症候群を疑い、早急に医療機関へ受診する。
②寝返りが自由にできない様な状態で、長時間過ごしたり、寝泊まりする環境は回避する。特に足を動かせない状況を作らないよう、座って眠ることで足の血行を悪化させるため、やもを得ない場合であっても、衣服などで身体を締め付けないようにし、足を少しでも伸ばせる様な姿勢を確保していく。
③排尿回数を減らす為、水分摂取を控えることで、エコノミー症候群のリスクを高める。水分を制限をしないよう、脱水が引き起こす病態についても避難をしている人々に指導を行う。また、排泄環境を整えるためトイレの設置やプライバシー確保にも努めていく。
対処方法:
エコノミークラス症候群を予防するために知っておくこととして、
①水分摂取をこまめに行う。(脱水を起こさないよう、血液が固まらないよう)
②定期的に身体を動かすようにする。同じ姿勢ばかりで過ごさない。
③足を上げて寝る。可能であれば車のシートを倒したり足を伸ばせるよう工夫する。
④歩行や足首の曲げ伸ばし運動(足関節の底背屈運動)や、かかとの上げ下ろしを行ったり、ふくらはぎのマッサージを行う。弾性ストッキングの着用も有効。
ただし、すでに血栓の存在するときには、マッサージや運動はかえって血栓が飛ぶ可能性があるので医師の指示に従う。
【避難所の状況】
換気・清掃が不十分
物資不足による影響
食事と寝床が同じ空間で行われる
多くの人が使うトイレ(できたらトイレのスリッパは別に!)
ライフライン途絶による影響
食生活の変化 塩分過剰・栄養の偏り・便秘
入浴制限 皮膚疾患・不衛生・不快感・
プライバシーの欠如
不安・恐怖 地震の場合は余震による恐怖、
人々のストレスが高く環境や空間への不満がありトラブルが発生しやすい
【避難住民の健康維持に関する注意点】
・指定避難所の多くは小中学校で、避難場所は体育館や教室であ
・災害による避難時には、衣食住が同じ場所で行われることになるので、開設時から避難所環境を最善にすることに努める必要がある
(土足にしない、トイレの清潔、ごみ置き場の設置や分別、ペット)
・要援護者が避難所にいる場合には特に配慮が必要
要援護者(要配慮者ともいう)とは・・・高齢者・障害者・子ども・妊産婦・外国人など災害時に情報入手が十分にできないか、避難に支援が必要である人々
・食料や水の配給が十分であるか?摂取栄養素(たんぱく・脂肪・炭水化物・ビタミン・無機質)は十分か?
・感染症が流行っていないか?
・インフルエンザ・ノロウイルス・食中毒・風邪など
・薬がない、具合が悪い人は診療を受けさせる (日赤や災害拠点病院、都道府県病院、各種組織病院、都道府県医師会など多くの医療者が被災地へ入ってくるので、来た時にタイムリーに診療を受ける)
・避難所で過ごすことができない人(要援護者や病人)は、福祉避難所や病院への移送を早期に検討する
・在宅酸素療法患者や透析患者は早急に移送!
【必要となるケアや保健指導】
疾病や外傷・症状への適切なケア
健康管理(血圧・脈拍・呼吸・熱・衣服調整・)
服薬管理 慢性疾患患者は特に薬の内容・量・残りのチェック
感染予防ケア(うがいや手洗いの励行を指導・感染に対する正しい知識について被災者や医療者・支援者に教育)
室温管理(冷暖房・扇風機)
清潔ケア
あるもので工夫 柔軟な対応
環境整備(住空間・トイレ・ごみ処理・掃除) ほこり予防のためできるだけ掃除機を!使用した雑巾やモップの衛生保持
食品衛生管理(内容・量・食品期限を厳守し、食中毒を予防する
わたしの著書に詳しく書いてあります。
事例を通して学ぶ避難所・仮設住宅の看護ケア [単行本]
黒田 裕子 , 神崎 初美 (著) 日本看護協会出版会